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たば塩スタッフが近況やさまざまな活動について、最新情報をお届けします。

「映画界だけでなく、博物館も支えてきた職人の技」2014.6.30

こんにちは。ひと月のご無沙汰でしたが、みなさまお変わりありませんか?
 暑いです。梅雨らしく雨が降れば気温は少し下がるものの、蒸し蒸しとして、晴れればもはや真夏のようです。東京の6月はこのような感じだったでしょうか…。

ワールドカップまっただ中で、テレビでは連日、試合が放送されています。観戦に熱が入って、寝不足の方もいらっしゃるかもしれません。渋谷・たばこと塩の博物館のある公園通りでは、夜になると、サッカー日本代表をイメージした青色のイルミネーションが点灯しています。

“サムライブルー”に輝く、夜の公園通り

“サムライブルー”に輝く、夜の公園通り

リニューアルに向けては、引き続き活発に打ち合せが行われています。この表現、ここ数回のブログで毎回書いていて常套句のようになっていますが、この状態がまだしばらく続くと思います。

この打ち合せの中から、今回は、「カラースキーム(色彩計画)」についてご紹介します。

以前にもお伝えしたとおり、新館は、倉庫の半分を博物館に改装します。建物自体は既存ですが、これを博物館として生まれ変わらせるためには、展示室だけではなく、建物全体の壁、床、天井から柱、階段、エレベータといったものをはじめ、さらに細かい部分についても検討していかなければなりません。そして、さまざまな場所に使用するものの素材、色についての検討もとても重要になってきます。

素材については、展示室の床は音が響かないようにカーペットを敷くとか、展示ケースの壁は解説パネルなどを固定する際に打つ釘の釘跡がなるべく残りにくいようなものにとか…。色についても例えば、「たばこ」と「塩」をテーマにした常設展示室は、それぞれの展示内容にマッチするようなプランが出てきました。

たばこ常設展に敷くカーペットのサンプル

たばこ常設展に敷くカーペットのサンプル

塩常設展に敷く床材のサンプル

塩常設展に敷く床材のサンプル

また、特別展示室については、“多彩なテーマの展覧会の開催”で高い評価をいただいている当館としては、想定できるさまざまな資料の展示にしっくりくるような色を選ぶことにしました。

特別展示室床のカーペットと展示ケース内の壁材サンプル

特別展示室床のカーペットと
展示ケース内の壁材サンプル

今はサンプルの小さな面でしか見ていないこの色が、実際の展示室に取り入れられたら一体どのようになるのでしょう?

休館以降の渋谷・たばこと塩の博物館常設展示室のようすは、以前にもご紹介しました。常設展示室の資料については、新館でも展示する資料が多いため、撤去して別の部屋で保管したり、大きいものなどは、展示室に設置したままの状態でビニールシートで養生したりしています。大きい資料の代表は、塩の展示室の1.2tのポーランド岩塩でしょう。オレンジ色の堂々とした姿を覚えていてくださっている方もいらっしゃることと思いますが、今はシートにくるまれて、新館での出番を待っています。

塩の展示室といえば、「瀬戸内海の入浜式塩田」ジオラマはご記憶でしょうか?

「瀬戸内海の入浜式塩田」ジオラマ

どこまでも広がる空の下に広がる塩田。塩浜では炎天下で人々が塩づくりをしていて、手前には釜屋や塩納屋が並び、入浜式塩田のようすが一目でわかるようになっています。塩田から上の方に視線をずらしてみると、青い空にもくもくと立ちのぼる入道雲やちぎれた雲が浮かんで、よく晴れた海辺のようすが伝わってきます…。

展示としては、入浜式塩田の仕組みの解説が主眼ですが、ジオラマをひとつの作品としてみたときに、この空と雲は、驚くほど素晴らしいものです。私の感想になってしまいますが、絵でも写真でもない本物の「空」が目の前に広がるようです。

「瀬戸内海の入浜式塩田」ジオラマ
「瀬戸内海の入浜式塩田」ジオラマ

写真でうまくお伝えすることができるでしょうか…?
背景画を前にして指で空だけ切り取ってみると、もはや本物の空のようなのです。

この生き生きとした表情の雲を描いたのは、画家の島倉二千六(ふちむ)さんです。

島倉さんは、東宝撮影所に入社し、背景画家として、30年以上にわたって、円谷作品をはじめ、黒澤明監督や伊丹十三監督作品などの撮影に携わってこられました。現在はご自身の工房“アトリエ雲”を構え、ご活躍中です。

島倉さんのことは、少し前に某テレビ番組のお天気コーナーでご紹介されていましたので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません(お天気キャスターさんが当館の入浜ジオラマの前でレポートされました)。映画で使われる背景画は、撮影が終わったら撤去されてしまいますので、当館のように残っている作品は少ないのでしょう。

島倉二千六さん。

島倉二千六さん。
ご本人にお会いするのは初めてでしたが、作業中の職人の佇まい、すごい技術に加えて、チャーミングな笑顔にすっかりファンになってしまいました。
それにしても、この写真。まるで本当の塩田で撮影したようです。

さて、今回話題にしたこの入浜式塩田のジオラマは、日本の「海水を濃縮して塩にする」製塩を示す非常に重要な展示として、新館でもご紹介する予定です。その際、釜屋や上荷船をはじめとする模型は再利用するため、撤去して別所に保管します。ところが模型と違って、この美しい背景は、展示室の壁に直接描かれているため、持っていくことができません。島倉さんの作品をご覧いただける貴重な場所だったのですが…。

しかし、ご安心ください。新館でも、島倉さんに描いていただく予定です。今回のジオラマでの作業は、模型の撤去と同時に、新たに背景画を描き直すための採寸・トレースを行っていただいたものでした。

スタッフのみなさんと作業中の島倉さん。

スタッフのみなさんと作業中の島倉さん。

スタッフのみなさんと作業中の島倉さん。

今まで見ていた「空」とお別れするのは寂しく、残念ですが、一方で新たな島倉さんの「空」に出会えることをとても楽しみにしています。

さて、模型を撤去したときに発見が!!。

模型が設置されているときには、隠れていましたが、撤去後に背景の全体像がみえてきたら、幾人もの塩田労働者が描かれていることがわかりました。気にしなければ見えないところにまで行き届いた仕事に感心し、ジオラマとしての細やかな出来映えと完成度に改めて感動しました。

「瀬戸内海の入浜式塩田」ジオラマ

模型が撤去されるとにわかに視線が塩浜にいきます。よく見てみると…。

塩田労働者
塩田労働者

塩田労働者が思いのほかたくさんいることに気づき、数えてみました。12人もの人が描かれていました。
ふと、背景画の中でほとんど気づかれずにもくもくと作業してきたみなさんをねぎらう気持ちがわいてきました。
36年間、お疲れさまでした。

中腰で作業する釜屋の男性
沼井で作業する女性

こちらは、立体のみなさん。ここまでのアップで見たのは初めてです。
中腰で作業する釜屋の男性は思った以上にたくましく、沼井で作業する女性は、美人だった!!

外された模型
さらに細かい鍬などの道具。納屋に置かれたり、人形が持っていたもの。

外された模型。上は、さらに細かい鍬などの道具。納屋に置かれたり、人形が持っていたもの。
丁寧に梱包され、この後別所に…。

明日から7月。7月といえば七夕でしょうか。♪『ささの葉 さ〜らさら』と、にわかに童謡「たなばたさま」が出てきて、涼やかな気分になりました。今年は織姫と彦星は会えるのでしょうか?

渋谷の館から代々木公園に行く途中でみつけた、ささの仲間と思しき植物で、少しだけ七夕気分?

渋谷の館から代々木公園に行く途中でみつけた、ささの仲間と思しき植物で、少しだけ七夕気分?

まだしばらく梅雨が続くと思いますが、みなさま、お身体には気をつけてお過ごしください。それでは、またひと月後に! (Y・H)