過去の特別展
たばこと塩の博物館(通称:たば塩)では、1890年代から現代に至る、国内外のたばこ広告をはじめとしたポスターを多数所蔵しています。
明治期、まだ民営だったたばこ業界では、各会社が看板、新聞、ビラ、宣伝隊など、様々な形で宣伝を行いました。その中でも、色鮮やかな石版印刷のポスターは当時の先端を行くメディアであり、販売促進を図るべくより美しいポスターを追求したことから、印刷技術も発展していきました。当館のポスターコレクションには、この時代の石版印刷ポスターはもちろん、その原画も含まれています。原画が現在にまで残っていることは非常に珍しく、印刷工程を示す写真と合わせることで日本の商業印刷黎明期の足跡をうかがうことができます。
本展では、当館のコレクションの中から、ポスターが広告メディアの花形だった1890年代から1960年代に製作された作品を展示します。明治期の美しい石版印刷ポスター、大正から昭和にかけて活躍した図案家によるポスター、名コピーが登場した昭和30年代のポスターなどを展示、日本のグラフィックデザインの変遷を紹介します。合わせて、サビニャックほか有名デザイナーの作品を含む海外のたばこポスターもご覧いただきます。
「たば塩コレクションに見る ポスター黄金時代」開催概要
- 主催
- たばこと塩の博物館
- 会場
- たばこと塩の博物館 2階特別展示室
- 開館時間
- 午前10時~午後6時
(入館は午後5時30分まで) - 休館日
- 毎週月曜日(ただし、1月13日は開館)、
12月29日(日)~1月3日(金)、2019年1月14日(火)
- 入館料
-
大人・大学生 100円(50円)
小・中・高校生 50円(20円)
満65歳以上の方 50円(20円) ※年齢がわかるものをお持ちください。
※( )内は20名以上の団体料金。
※障がい者の方は障がい者手帳などのご提示で付き添いの方1名まで無料。
展示関連イベント
展示関連講演会
- 2020年1月11日(土)
- 「戦前期日本のポスター史におけるたばこポスター」
田島奈都子(ポスター研究者、青梅市立美術館学芸員)
- 2020年1月19日(日)
- 「印刷技術とポスターのデザイン」
寺本美奈子(キュレーター、武蔵野美術大学非常勤講師)
- 2020年2月8日(土)
- 「杉浦非水 その生涯と仕事」
長井健(愛媛県美術館専門学芸員・学芸グループ担当係長)
- ※午後2時から、3階視聴覚ホールで開催。
- ※定員は先着90名。参加には入館料が必要です。
- ※当日開館時より整理券を1名につき2枚まで配布します(配布時に人数分の入館料をいただきます)。
特別映画上映会
- 2020年1月13日(月・祝)
- 「太陽の季節」 1956年製作/モノクロ/上映時間89分
- 2020年2月11日(火・祝)
- 「大草原の渡り鳥」 1960年製作/カラー/上映時間84分
- ※午後2時から、3階視聴覚ホールで上映。
- ※定員は先着90名。参加には入館料が必要です。
- ※当日開館時より整理券を1名につき2枚まで配布します(配布時に人数分の入館料をいただきます)。
展示解説
- 2020年1月5日(日)、2月2日(日)
- 担当学芸員が展示の見どころを解説します。
- ※午後2時から、1階ワークショップルームで開催。
- ※定員は先着40名。参加には入館料が必要です。
- ※当日開館時より整理券を1名につき2枚まで配布します(配布時に人数分の入館料をいただきます)。
展示の構成と作品紹介
ポスター黎明期
世界における近代ポスターの誕生は1880年代とされ、石版印刷の技術とともに発展していきました。日本では、江戸時代から商品の広告や芝居の告知を目的として制作された「引札」や「絵びら」がありました。これらは、現在のチラシに類する広告宣伝用の摺り物で、浮世絵版画(木版)の技法を使い、美人や風景などの挿絵が描かれたものに商店名や商品名を入れて配りました。
明治時代になると、日本でも欧米からの輸入紙巻きたばこ(シガレット)を宣伝するために現地で作られた石版刷りのポスターが街を飾るようになりました。文明開化の日本では、「引札」などの伝統的な広告と欧米生まれのポスターが同時代的に街を飾りました。
たばこポスター全盛期 明治たばこ宣伝合戦
1890年代から1900年代初頭(明治20~30年代)には、日本でも多色石版印刷のポスターが製作されるようになりました。
明治初期に紙巻たばこが国内で製造されるようになると、たばこ製造業者が販売競争を繰り広げるようになりました。その中でも「天狗煙草」で名を馳せた東京の岩谷松平と、「サンライス」「ヒーロー」といった商品を販売した京都の村井吉兵衛の争いは、のちに「明治たばこ宣伝合戦」と称されるほど有名でした。看板・新聞・ビラ・宣伝隊など、当時考えられるあらゆるメディアを使った宣伝活動は、明治の広告業界をリードし、その中でも石版印刷のポスターは先端を行くメディアでした。たばこ産業の宣伝活動は印刷技術の向上に大きな役割を果たしました。20世紀、日本でポスターというメディアの幕を開き、リードしたのはたばこ産業といえます。
収蔵品に見る明治期のポスターの作り方
当館では、明治のたばこ王・村井吉兵衛が自社製品のパッケージ印刷のために1899年に設立した東洋印刷株式会社(後に大蔵省専売局京都印刷工場)の関係資料を所蔵しています。たばこの民営期から専売時代を含み100年続いたこの工場の資料には、当時の石版印刷ポスターはもちろん、その原画や印刷工程を示す写真も含まれ、明治から昭和へと移りゆく印刷の歴史がうかがえます。原画が残っていることにより、画工が手描きで石版に写す工程を持つ石版印刷にとって、画工の腕が完成ポスターの出来を大きく左右するものだったことがうかがえます。
「図案」という概念
大正から昭和初期にかけて、写真製版をはじめとする印刷技術の発展と、留学生からの情報や海外の雑誌などに掲載された作品の影響で、「図案=デザイン」の概念を導入したポスターが製作されるようになりました。三越呉服店や上野から浅草駅間地下鉄ポスターで知られる杉浦非水らが「図案家」として登場し、商業美術の時代を切り開いていきました。
大蔵省専売局では、こうした商業美術の発展を受け、杉浦非水に製作依頼し、弟子である野村昇をパッケージやポスターの製作に関わらせたりしました。明治時代のポスター製作では、原画を忠実に石版に描き写すことが画工に求められましたが、写真技術の発達にともない写真を利用して製作できるようになったことで、図案家たちは写真とは違った、手描きならではの面白さや構図を追求しました。
その他のポスター
当館が所蔵するポスターには、1950年代後半から1960年代、高度成長期の日本で再び迎えたたばこポスター全盛期の作品も多くあります。名コピーが散りばめられた作品や、秋山庄太郎や樋口忠男といったフォトグラファーによる美しい写真が使用された作品などには、広告ポスターに勢いがあった時代を感じることができます。
一方、19世紀から20世紀初頭、ポスター文化が花開いたフランスで街角を飾る芸術でもあったたばこポスターや、キャッチコピーも鮮やかな20世紀初めのアメリカのたばこポスターなども所蔵しています。ポスター誕生の地である欧米の作品からは、グラフィックデザインの発展と合わせ、世界の文化・風俗を垣間見ることができます。