特別展Exhibition

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「見て楽し遊んで楽し 江戸のおもちゃ絵 Part2」

江戸から明治にかけて、おもちゃ絵と呼ばれる主に子ども向けの浮世絵が作られていました。おもちゃ絵には、“虫尽くし”や“道具尽くし”といった同じカテゴリーのものを一枚に集めて描いた「物尽くし」、昔話など話の起承転結を一枚の絵にまとめた「物語」、切り抜いたり組み立てたりする現在のペーパークラフトのような「細工物」、絵双六や十六むさしといった「ゲーム」と、大きく4つのジャンルがあります。
当館では浮世絵の多彩さ、江戸時代の出版文化の豊かさを伝えるものとしておもちゃ絵に注目しており、2020年度には「見て楽し遊んで楽し 江戸のおもちゃ絵 Part1」を開催しました。その第二弾となる本展では、会期を二部に分け、合わせて約300点のおもちゃ絵を展示し、その魅力的な世界をご覧いただきます。第一部では、天神様、祭礼、相撲、役者、忠臣蔵などをテーマにしたさまざまなジャンルのおもちゃ絵を展示します。第二部では、児童文学研究者で法政大学名誉教授であったアン・ヘリング氏のコレクションから、ヘリング氏が特に大切にしていた桃太郎関係のおもちゃ絵、猫の絵、組上げ灯籠などを展示します。展示を通して、おもちゃ絵そのものの魅力とともに、早くからおもちゃ絵に注目し、収集してきたヘリング氏についてもご紹介します。

  • 見立てうちんぐら 九段目 歌川国芳画 個人蔵
    手前に切り抜かれたおもちゃ絵が描かれており、当時の人々の日常に溶け込んでいたことが窺えます。

  • 金太郎 歌川芳艶画 アン・ヘリングコレクション
    金太郎の衣装つけ。衣装つけは、“姉様尽くし”や役者のものが多く見られますが、幼い子ども向けに、昔話の主人公のものも作られていたことがわかります。

「見て楽し遊んで楽し 江戸のおもちゃ絵 Part2」開催概要

会期 2023年12月2日(土)~2024年1月28日(日)
主催 たばこと塩の博物館 会場 たばこと塩の博物館 2階特別展示室
開館時間 午前10時〜午後5時
(入館締切は午後4時30分)
休館日 毎週月曜日(但し2024年1月8日(月・祝)は開館)、
2023年12月28日(木)~2024年1月3日(水)、2024年1月9日(火)
入館料 大人・大学生 100円
小・中・高校生 50円
満65歳以上の方 50円

※障がい者の方は障がい者手帳(ミライロID可)などのご提示で付き添いの方1名まで無料。

展示関連イベント

展示関連講演会
1月20日(土)
「ヘリングさんの思い出」
講師:岩崎 均史(元たばこと塩の博物館主席学芸員・静岡市東海道広重美術館館長)
  • ※往復ハガキによる事前申込制で、定員は60名。応募ハガキは、2024年1月5日(金)必着、応募多数の場合は抽選となります。
  • ※参加には、入館料(一般・大学生100円/満65歳以上・小中高校生50円)が必要です。
おもちゃ絵ペーパークラフトワークショップ
1月14日(日)
指導:トニー・コール(ペーパークラフト作家)
1月27日(土)
指導:トニー・コール(ペーパークラフト作家)
  • ※往復ハガキによる事前申込制で、定員は各20名。応募ハガキは、2024年1月5日(金)必着、応募多数の場合は抽選となります。
  • ※参加には、入館料(一般・大学生100円/満65歳以上・小中高校生50円)が必要です。
  • ※対象年齢は小学校3年生以上です(小学生は保護者同伴でお願いいたします)。
  • ※両日とも内容は同じです。「天神様のおもちゃ絵」か「隅田川のお土産のおもちゃ絵」、その場でお好きな方をお選びいただけます。
  • ※使いやすいハサミをご持参ください。

※参加申込の受付は終了しました。多数のお申し込み、ありがとうございました。

展示について

第一部 <12月2日(土)~12月27日(水)> の展示作品

第一部では、天神様、祭礼、相撲、役者、忠臣蔵などをテーマにしたものや、おもちゃ絵を多数出版した版元にスポットを当て、物尽くしや細工物、物語、ゲームなど、さまざまなジャンルのおもちゃ絵約170点を紹介します。

  • 【廻り灯籠(細工物)】
    座敷の廻り灯籠 歌川貞重(国輝)画 たばこと塩の博物館蔵
    廻り灯籠は、ペーパークラフトのように組み立てた後、内側にロウソクを灯すと、その熱の上昇気流を上部に付けた風車が受けて内側の影絵がゆっくりと動く仕掛けです。この廻り灯籠は、2階が影絵で、1階では踊り騒ぐ宴会が繰り広げられる楽しいもの。2階の芸者の手も動くようになっています。

  • 【役者のおもちゃ絵(細工物/衣装つけ)】
    一世一代中村歌右衛門 歌川豊国画 個人蔵
    人気役者・三代目中村歌右衛門の衣装つけ。さまざまな演目の衣装に着せ替えることができます

  • 【おもちゃ絵を多数出版した版元の作品(細工物/写し絵)】
    風流うつしゑ 勝蝶画 個人蔵
    おもちゃ絵の出版が特に盛んになるのは、19世紀半ば以降と思われますが、それ以前におもちゃ絵の版元として目立つのは「江崎屋辰蔵(江辰)」です。
    文政から天保にかけて、写し絵のおもちゃ絵が流行しました。黒い背景に丸枠で小さな絵が描かれているのは、幻灯機のレンズの形に由来しているようです。おもちゃ絵の画面に、覗き台が一緒に描かれているものは、そこに描かれた丸をくり抜いて絵をのぞかせて遊んだのでしょう。この作品は江崎屋辰蔵が出版したものです。

  • 【おもちゃ絵を多数出版した版元の作品(細工物/写し絵)】
    手遊うつしゑ 勝蝶画 個人蔵
    「風流うつしゑ」と対のようにも見える作品。こちらも江崎屋辰蔵が出版したものです。

  • 【天神様のおもちゃ絵(物尽くし)】
    天神尽くし 不明 個人蔵
    三十六面に区切られた天神尽くし。幼少の頃から晩年の荒ぶる様子まで、さまざまな菅原道真像が描かれています。この作品も江崎屋辰蔵版です。

  • 【お面のおもちゃ絵(物尽くし)】
    新板面つくし  歌川貞房画 アン・ヘリングコレクション
    能面、七福神、天狗、昔話の主人公、おかめひょっとこなどのお面が並びます。面尽くしもおなじみのおもちゃ絵で、画面を細かく仕切って多数のお面を並べた作品が多いなか、本作では一つ一つのお面が大きく描かれています。この作品も江崎屋辰蔵版です。

  • 【仕掛け絵】
    吹矢の当物 歌川芳藤画 たばこと塩の博物館蔵
    吹矢で的を射るとお化けが出るという仕掛けのおもちゃ絵です。折変わりや引き抜きで、場面を変えることができるよう工夫されています。この作品は自分で組み立てる細工物ではなく、この状態で売られていたと思われます。

  • 【仕掛け絵】
    吹矢の当物 歌川芳藤画 たばこと塩の博物館蔵
    場面を変えたようす。

  • 【凧屋の仕掛け絵】
    凧屋の仕掛け絵 歌川芳藤画 個人蔵
    葦簀張(よしずばり)の凧屋と獅子舞が表裏で描かれているおもちゃ絵です。こちらは表から見たもの。写真は組み上げた状態ですが、畳むこともできます。
    後世まで残ることが少ないおもちゃ絵の中で、一部欠けはあるものの、当時のままの形で残った珍しい例です。この作品は自分で組み立てる細工物ではなく、この状態で売られていたと思われます。

  • 【凧屋の仕掛け絵】
    凧屋の仕掛け絵 歌川芳藤画 個人蔵
    こちらは裏から見たもの。

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第二部 <1月4日(木)~1月28日(日)> の展示作品

第二部でご紹介する作品は、全て、長年おもちゃ絵を収集されてきたアン・ヘリング氏(法政大学名誉教授/1938-2021)のコレクションから選びました。氏が特に大切にしていた桃太郎に関係する作品をはじめ、猫の絵、組上げ灯籠、双六といったおもちゃ絵約110点を取り上げます。作品と合わせて、早くからおもちゃ絵に着目し、収集してきたヘリング氏についても紹介します。

  • 【桃太郎の絵】
    桃太郎宝遊 歌川重宣(二代広重)画 アン・ヘリングコレクション
    鬼を退治し、宝物を手に入れた桃太郎が描かれています。
    「桃太郎再発見」の論考もあるヘリング氏は、桃太郎や昔話に関係するあらゆる物を収集してきました。

  • 【桃太郎のおもちゃ絵(物語)】
    昔咄桃太郎 歌川芳幾画 アン・ヘリングコレクション
    おばあさんが川で洗濯していると桃が流れてくるところ、成長して鬼退治に行くところ、そして帰還まで、桃太郎の物語が一枚の絵に描かれています。

  • 【猫のおもちゃ絵】
    行水猫のたわむれ 歌川芳藤画 アン・ヘリングコレクション
    擬人化した猫の絵ですが、着物を脱いだ猫がより猫らしく見える楽しい作品。猫がお湯に入っている絵はほかにも数多く出版されています。

  • 【猫のおもちゃ絵】
    新板ねこの世の中 不明 アン・ヘリングコレクション
    着物を着た擬人化された猫と、猫らしい猫が混在していて楽しい作品。

  • 【化け物のおもちゃ絵(物尽くし)】
    新板化物づくし 歌川芳幾画 アン・ヘリングコレクション
    お化けはおもちゃ絵の題材によく取り上げられます。上から二段目には「悪」の顔をした生き物が二体描かれています。これは、人の心のありようを表す魂で、悪魂(悪玉)に取り憑かれると人は悪行を重ねるという考えによるもの。悪魂もお化けとして取り上げられています。

  • 【双六】
    昔咄赤本寿語禄 歌川芳幾画 アン・ヘリングコレクション
    花咲爺、分福茶釜、桃太郎、猿蟹合戦、狐の嫁入りなど、昔話のさまざまな場面がマスになっている双六です。

  • 【組上げ灯籠】
    新板一ノ谷合戦坂落之とうろふ組上 歌川豊久画 アン・ヘリングコレクション
    二枚で鵯越の坂落しで有名な一ノ谷合戦の様子を作り上げるため、人物などは小さく、坂落しの場面も小さすぎてよくわからないのが残念ですが、完成すると楽しいものです。

  • 「新板一ノ谷合戦坂落之とうろふ組上」のカラープリントによる組上げ見本
    制作:トニー・コール  撮影:エス・アンド・ティ フォト

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アン・ヘリング氏について

1938年オレゴン州ポートランド生まれ。文楽のアメリカ公演を見て衝撃を受け、ワシントン大学にて日本語を学びます。その後来日し、法政大学で教鞭をとりつつ、日本のおもちゃ絵や児童文学に関する一大コレクションを築きました。
ヘリング氏とたばこと塩の博物館との関わりは、1985年に始まります。「企画展 江戸の遊び絵」(1986年1月4日~2月16日)で、ヘリング氏所蔵のおもちゃ絵を多数展示し、以後、おもちゃ絵に関わる展覧会を開催するたびにヘリング氏の協力を受けてきました。また、当館の1988年度版常設展示室ガイドブック英語版はヘリング氏による翻訳ですし、1999年には、ヘリング氏の紹介がきっかけとなってセップ・リンハルト氏(ウィーン大学教授)とともに特別展「拳の文化史」展を開催するなど、長年にわたって当館の協力者でした。
今回の「江戸のおもちゃ絵 Part2」展においても、展示に向けての事前調査をヘリング氏と重ねていましたが、2021年、氏は急逝されました。そのため、関係者と相談の上、ヘリング氏のコレクションを一時的にお預かりして、当館で整理することとなりました。
本展は、当初、ヘリング氏のコレクションを一部借用展示するという構想でしたが、ヘリング氏のおもちゃ絵コレクションをほぼ全点お預かりしたことにより、第二部(1/4~1/28)は、氏のコレクションのみで構成することとしました。第一部・第二部と合わせ、計166点の氏のコレクションを紹介していますが、ヘリング氏が収集したおもちゃ絵は文字通り膨大で多岐にわたるため、本展で紹介できたのはコレクションのごく一部です。

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