特別展Exhibition

Web企画展 [第6回] 浮世絵と喫煙具

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谷田 有史(主任学芸員)

たばこと塩の博物館は、1978年(昭和53)11月3日に渋谷区神南に開館しましたが、その母体となる資料の収集は、開館のおよそ半世紀も前から行われていました。それは、1932年(昭和7)、大蔵省専売局の佐々木謙一郎長官(1882〜1953)【写真1】が、たばこ関係の歴史資料として浮世絵・喫煙具などを収集するために、局内の官房総務課に収集品取扱係を設置し、組織的な収集をしたことに始まります。

当時は、江戸時代から行われてきた、髪の毛ほどの細さに刻んだ“細刻み”たばこをきせるで吸うという日本独特の喫煙方法が、明治維新後に流行が始まった紙巻きたばこ(シガレット)の普及により、その地位を“口付”や“両切”といった紙巻きたばこに譲りつつあった時期【表1】で、また、日本の優れた美術工芸品の海外流出も盛んであったため、この機を逃せば、まとまった資料の収集が不可能になるという危機感から、佐々木長官は決断を下したのでした。

佐々木謙一郎

【写真1】佐々木謙一郎

【表1】たばこ売上高(単位:千円)

【表1】たばこ売上高(単位:千円)

(たばこ専売五十年小史)

その経緯や背景については、1935年(昭和10)3月に専売局から刊行された『大日本煙草史料図録第一巻 器具篇』に記されていますが、それによると佐々木長官は、浮世絵や工芸品、古美術に造詣が深かった友人の古堀栄氏(生没年不詳)を嘱託に迎えて、精力的に資料収集にあたりました。およそ一年半の期間で、現在当館が所蔵する浮世絵や喫煙具類のほぼ半数が収集され、1936年(昭和11)12月には『大日本煙草史料図録第二巻 絵画篇』【写真2】も刊行されています。

こうして収集された浮世絵や喫煙具については、いずれ専売局の史料館を建設し、広く一般に公開していこうという構想も立てられていましたが、1937年(昭和12)の日中戦争の勃発により中断され、収集品取扱係も廃止されることとなります。太平洋戦争中は、収集された資料の大半が、当時としては最新式の恒温恒湿設備のある三菱江戸橋倉庫(後の三菱江戸橋トランクルーム)に保管され、一部、戦中・戦後の混乱の中で失われたものもありましたが、大半は戦災を免れることができました。

そして1974年(昭和49)たばこ製造専売70周年記念行事の一つとして、たばこと塩の博物館の設立が決定されましたが、これにより佐々木長官の英断により収集が始まった浮世絵と喫煙具は、ほぼ半世紀の時を経て日の目を見ることとなったのでした。

『大日本煙草史料図録第二巻 絵画篇』

【写真2】『大日本煙草史料図録第二巻 絵画篇』

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