特別展Exhibition

過去の特別展

着物と装身具に見る江戸のいい女・いい男

上品な中にも職人技が光る女物の着物と装身具

古典文芸をモチーフに精緻な刺繡を施した礼装の「御所解(ごしょどき)」や、同様に華やかな装飾を施した紙入れの「筥迫(はこせこ)」などを身につけた武家女性は、江戸の町人女性にとって憧れの存在だった。

「業平菱に杜若冠文様打掛」 綸子地 型鹿子、刺繡、金刺繡/江戸後期
寸法:身丈163.5×裄61.3cm

光沢のある絹織物「綸子(りんず)」の白地に、杜若(かきつばた)や公家の冠(こうぶり)などをあらわした振袖。在原業平が三河の八橋に咲く杜若を見て、旅の想いを詠んだ『伊勢物語』の第九段を意匠化したもの。「三重襷」(業平菱とも称された)の文様を、物語にある「八橋」の橋に見立てている。

「秋草に鶉文様振袖」 縮緬地 白上、型鹿子、刺繍、金刺繡/江戸後期
寸法:身丈148.5×裄63.1cm

藍鼠色縮緬(ちりめん)地に秋草と鶉(うずら)をあらわした振袖。刺繡で写生的に表現した鶉に対し、秋草は文様を白く染め残す技法の「白上がり」であらわし、一部に色彩を添えている。「薄(すすき)に鶉」は、藤原定家が詠んだ月次(つきなみ)花鳥和歌の中の九月の主題。
※後期展示:5月30日(火)〜7月2日(日)

「雪中閑居文様小袖」 縮緬地 描絵、白上、刺繡、金刺繡/江戸後期
寸法:身丈150.3×裄64.0cm

鼠色縮緬地に雪中の山辺や草庵をあらわした小袖。意匠は『三国志演義』の、劉備(りゅうび)が孔明(こうめい)を三度訪れて出仕を説く「三顧(さんこ)の礼」の逸話を暗示している。典雅な古典文芸が多い武家女性の礼装としては異色のモチーフ。金糸を贅沢に用いた精緻な刺繍が目を引く。

松桜水村風景文様振袖単衣 平絽地 白上、友禅染、刺繡、金刺繡/江戸後期
寸法:身丈164.7×裄59.5cm

風通しのよい「平絽(ひらろ)」地の上部を瑠璃(るり)紺色に、白ぼかしの下を鼠色に染め分けた夏の振袖。刺繍であらわした茅屋(ぼうおく)と汐汲み桶、背景の松は、須磨の浦を舞台に、海人の姉妹が配流の身となった在原行平を恋慕する謡曲『松風』を意匠化したもの。
※後期展示:5月30日(火)〜7月2日(日)

「赤羅紗地蝶文様錦糸筥迫」 江戸末期
寸法:縦9.5×横14.0cm

錦糸を用いて蝶をあらわした華やかな「筥迫(はこせこ)」。筥迫は「箱の狭いもの」という意味で、江戸時代中期頃より発達した女性用の装身具。多くはこのように豪華な装飾や細工が施され、御殿女中や武家中流以上の婦人が懐紙や小銭、櫛、鏡などを入れて携帯した。

「青色地羅紗懐中鏡入れ」 江戸末期
寸法:縦14.0×横21.0cm

落ち着いた色調の羅紗地の鏡入れだが、中を開けると金襴(きんらん)仕立てになっている。鏡入れは紙入れから転化したもので、武家や町家の婦人に広く使われ、筥迫と同様に銅製の鏡や薬、楊枝などを入れた。懐に入れて持ち歩いたため、「懐中鏡入れ」と称されることもある。