過去の特別展
上品な中にも職人技が光る女物の着物と装身具
古典文芸をモチーフに精緻な刺繡を施した礼装の「御所解(ごしょどき)」や、同様に華やかな装飾を施した紙入れの「筥迫(はこせこ)」などを身につけた武家女性は、江戸の町人女性にとって憧れの存在だった。
「業平菱に杜若冠文様打掛」
綸子地 型鹿子、刺繡、金刺繡/江戸後期
寸法:身丈163.5×裄61.3cm
光沢のある絹織物「綸子(りんず)」の白地に、杜若(かきつばた)や公家の冠(こうぶり)などをあらわした振袖。在原業平が三河の八橋に咲く杜若を見て、旅の想いを詠んだ『伊勢物語』の第九段を意匠化したもの。「三重襷」(業平菱とも称された)の文様を、物語にある「八橋」の橋に見立てている。
「雪中閑居文様小袖」
縮緬地 描絵、白上、刺繡、金刺繡/江戸後期
寸法:身丈150.3×裄64.0cm
鼠色縮緬地に雪中の山辺や草庵をあらわした小袖。意匠は『三国志演義』の、劉備(りゅうび)が孔明(こうめい)を三度訪れて出仕を説く「三顧(さんこ)の礼」の逸話を暗示している。典雅な古典文芸が多い武家女性の礼装としては異色のモチーフ。金糸を贅沢に用いた精緻な刺繍が目を引く。
「赤羅紗地蝶文様錦糸筥迫」
江戸末期
寸法:縦9.5×横14.0cm
錦糸を用いて蝶をあらわした華やかな「筥迫(はこせこ)」。筥迫は「箱の狭いもの」という意味で、江戸時代中期頃より発達した女性用の装身具。多くはこのように豪華な装飾や細工が施され、御殿女中や武家中流以上の婦人が懐紙や小銭、櫛、鏡などを入れて携帯した。