特別展Exhibition

過去の特別展

ちりめん細工の今昔

江戸と明治・大正時代のちりめん細工

江戸時代の後半、武家や商家などの女性たちによって生み出された「ちりめん細工」は、明治時代に入ると、女学生の教材としても取り上げられるようになり、さまざまなものが作られるようになりました。

縮緬と「ちりめん細工」

縮緬(ちりめん)は、経糸(たていと)に撚(よ)りのない生糸、緯糸(よこいと)に強い撚りをかけた生糸を用いて平織りし、精練して布の表面に「しぼ」を出した絹織物です。糸の撚り方や糸の太さ、織り方などによってさまざまな表情のしぼが生まれます。しぼが立つことで、つややかな絹織物に陰影が生まれ、柔らかさとやさしい風合いがかもし出されます。
一方、裁った縮緬の残り布を縫いつないで作る裁縫お細工物は、江戸時代から上流階級の女性たちの間で育まれた伝統手芸で、花や動物、器物などを題材とした小さな袋物などが多く作られました。

江戸時代後期に作られた袋物

お手製と思われる、懐中たばこ入れ
たばこと塩の博物館館蔵

用と美のちりめん細工 技法のさまざま

ちりめん細工の袋物や小箱、懐中物などには「押絵」「きりばめ細工」「つまみ細工」といった技法が用いられ、細部や見えない部分にまで工夫が凝らされています。

「押絵」の技法で作られた小箱
「常盤御前雪の道行」

「押絵」の「押す」は「貼る」を意味する。絵を部分にわけて型紙を起こし、厚紙を切り、それぞれに綿をのせ、縮緬などでくるんだ部品を貼り合わせていく技法。袋物や小箱などに用いられた。

「きりばめ細工」の袋物
「一谷嫩(ふたば)軍記」

「きりばめ細工」は、布地の一部を切り取った後、別裂をその形に切り取ってはめ込む技法。高い技術を要し、ちりめん細工の袋物や袱紗(ふくさ)などに多用された。

「つまみ細工」の巾着

「つまみ細工」は、竹製のピンセットなどの道具を用い、「丸つまみ」「角つまみ」と呼ばれる折り方で小片を作り、台の上に糊で貼りつける技法。簪や櫛、薬玉などに用いられた。

女学生たちのちりめん細工

明治時代に入ると、ちりめん細工は女学校の教材として取り上げられ、女学生たちは意匠を凝らした作品作りを競い合いました。明治27年に金田孝女が著した『女学裁縫教授書』をはじめとする裁縫お細工物(ちりめん細工)の教科書も数多く出版され、それらは女学校や裁縫塾などでも使用されました。

『裁縫教授書(明治27年)』より
ひよこ袋の作り方

鶏の親子袋

子育てのお細工物

明治・大正時代のちりめん細工には、子どもの誕生を祝い、その成長を見守る作品が数多く見られます。「初宮参り」と呼ばれる儀礼で使用されるよだれかけや帽子。また、子どもの成長とともに必要となる巾着や人形袋など、母親の深い愛情が伝わる作品があります。

宮参り帽とよだれかけ

魔除けになると考えられた赤色が好まれた。

仔犬や猫などの「迷子札」

子どもの帯に結び着けたもの。裏側には子どもの住所と名前を書いた。