特別展Exhibition

Web企画展[第2回]たばこ入れ

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西田 亜未(学芸員)

たばこが日本に伝来したと考えられる16世紀末頃以降、髪の毛よりも細く刻んだ葉たばこをきせるに詰めて吸う日本特有の喫煙方法が発達し、人々に広く親しまれました。

この喫煙方法ではきせるの他に細刻みたばこや着火道具を要し、これらをまとめるためにたばこ盆やたばこ入れが用いられました。当初はありあわせの品で代用していたこれらの道具も、たばこが嗜好品として人々の生活に根付いていくのにあわせて、持ち主のセンスを反映する調度品や装身具として洗練されていきます。

とくに携帯用のたばこ入れは、一服するときはもちろん、腰から提げたり衿もとからのぞかせたりと、何かと人目につくファッションアイテムとして重要でした。

今回のweb企画展ではたばこ入れを「用」と「美」の両面からご紹介します。

たばこ入れの「用」

外出先での一服に必要な、細刻みたばこやきせるなどを持ち運ぶために工夫された袋物がたばこ入れである。たばこが伝来した当初は、巾着や燧袋(ひうちぶくろ:着火道具を携帯用にまとめた袋物)など既存の袋物で代用していた。その後、たばこが嗜好品として定着していく中で、たばこを携帯するための袋物として、たばこ入れが登場し携帯の形態も整えられていった。

形態は多数あるが、懐に入れこむ「懐中たばこ入れ」と、根付や筒を着物の帯から提げる「提げたばこ入れ」「一つ提げたばこ入れ」「腰差したばこ入れ」に大別される。

*懐中たばこ入れ

細刻みたばこを入れる袋と、きせるを入れる筒からなる。その名の通り、懐に収めて携帯した。

懐中たばこ入れ 袋 きせる筒
「独(ひとり)息子に
娵(よめ)八人」歌川国芳

「独(ひとり)息子に
娵(よめ)八人」歌川国芳

衝立(ついたて)一枚を隔てて迫り来る熱狂的なファンと八代目市川団十郎(1823-1854)を描く。八代目は、美貌と篤実な性格で婦女子に絶大な人気を誇った。女性たちとは対照的に飄々とした表情の団十郎は、懐中たばこ入れから取り出したたばこを、きせるに詰めている。

[八代目の手元]

[八代目の手元]

*腰から提げるたばこ入れ

帯に根付やきせる筒を掛けて、袋を吊るす形態のたばこ入れ。写真は根付で袋ときせる筒を吊るす「提げたばこ入れ」と呼ばれるもの。
 根付で袋だけを吊るすものを「一つ提げたばこ入れ」、根付にかえて、きせる筒を帯に差すものを「腰差したばこ入れ」と呼ぶ。

[提げたばこ入れ部分]

[提げたばこ入れ部分]

文政3年(1820)の舞台を描く。歌舞伎役者が帯から吊るしているのは、提げたばこ入れ。腰から提げる形のたばこ入れは、とくに着物に映えた。

[裏座]

[裏座]
たばこ入れの蓋を止める金具で、蓋の裏側にある。表からは見えない部分だが、彫金や彩色などで装飾されることも多い。

*たばこ入れで携帯したもの

◎ 細刻みたばこ

乾燥させた葉たばこを、幅0.1ミリという世界でも類のない細さに刻んだ。

細刻みたばこ

◎ きせる

ヨーロッパのパイプや東南アジアの喫煙具が原形と思われるが、細刻みたばこにあわせて、日本特有の喫煙具として発達した。初期のきせるは、長大で火皿も大きく、当時の風俗画には刀のような長さで描かれている。
 喫煙習慣の定着とともに、きせるも携帯に便利なように短く、火皿も小さくなった。雁首(がんくび)と吸口は金属製で、羅宇(らう)には竹を用いた「羅宇きせる」と、全体が金属の「 延べ(のべ)きせる」に大別される。

きせる
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