特別展Exhibition

Web企画展[第2回]たばこ入れ

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素材(3)竹・藤

竹もたばこ入れにはよく用いられた素材である。そのままの形で筒や袋に用いた他、細く割いて編み上げることもあった。同様に南方から輸入された籐も細かく割いて袋や筒の形に成形した。簡素な素材を見事な装飾品に仕立て上げた、職人の手技を垣間見ることができる。

籐花結組腰差したばこ入れ
籐花結組腰差したばこ入れ
一見しただけでは分からないが、袋の編目を拡大すると花がつながっているように見える。袋は繊維に沿って細かく割いた籐で編まれており、現代には伝わっていない「花結組」の技法が用いられている。
 さらに、筒も細く割いた竹で形成され、その両端は網代に編まれている。こちらは「網代組」と呼ばれる。袋、筒共に手技尽くしの一点である。八代目桂文楽の旧蔵品。
細く割いた竹で編まれた筒。

細く割いた竹で編まれた筒。

細かく割いた籐を、編み目が花の形になるように編み上げた袋。

細かく割いた籐を、編み目が花の形になるように編んだ袋。

素材(4)とんこつ

これまで紹介してきた素材の他に、木や金属などの堅い素材で仕立てた「とんこつたばこ入れ」がある。硬質な素材を用いることで、頑丈で気密性が高く、農業や狩猟など長時間の野外活動にも適した作りとなっている。本来のとんこつたばこ入れは、こうした作業の従事者が、身近にあった木々で自作出来るような簡素なものだった。
 しかし中には、装飾性を重視した高価な象牙製や青貝製のものも見られる。装飾に凝った革や布のたばこ入れとは対極に位置するとんこつたばこ入れを、あえて珍しい素材で豪華に仕立てて本来の用途とのずれを楽しんだのだろう。

木製とんこつ腰差したばこ入れ
木製とんこつ腰差したばこ入れ
欅(けやき)のこぶを利用したたばこ入れ。身近な素材をそのまま用いた簡素なつくりとなっている。
彩色象牙とんこつ腰差したばこ入れ
彩色象牙とんこつ腰差したばこ入れ
袋は象牙製で、紅葉や桜が蒔絵であしらわれている。古来より高価な輸入品であった象牙は、加工のしやすさもあって、きせる筒や根付にはよく用いられたが袋に用いられた例は珍しい。重厚感のある袋に対し、きせる筒は漆を塗った和紙製で非常に軽く、その取り合わせも見所の一つと言える。
コレクションとしてのたばこ入れ

紙巻たばこ(シガレット)が主流になった後も、昭和の初め頃まできせるでの喫煙は日常的に見られ、たばこ入れもまだ道具として用いられていた。
 昭和の名人として知られる落語家・八代目桂文楽はたばこ入れ収集を趣味とし、コレクションは100点を数えた。落語家になる前に袋物屋に奉公していた経験から名品を揃え、収納用の箪笥もあつらえるほどであった。弟子や知人に譲った物も多く、後年にはコレクションは散逸してしまったが、当館では40点ほどの桂文楽旧蔵品と、たばこ入れ収納用からくり箪笥を所蔵している。

[八代目桂文楽]
明治25(1892)年生まれ。自宅のあった地名にちなみ「黒門町(くろもんちょう)」(現在の台東区上野)とも呼ばれた落語家。緻密に作り込んだ、機械仕掛けのように正確な語り口で、人気を博した。昭和46(1971)年没。

たばこ入れ収納用からくり箪笥
たばこ入れ収納用からくり箪笥
漆は池之端の指物屋・京屋の塗り。たばこ入れを収納するためにこしらえた特注品。文楽の家にあった他の箪笥も同じ塗りで揃えられていた。隠された仕掛けをはずさないと、すべての引出しが開けられないようになっている。
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