特別展Exhibition

Web企画展[第3回]ミニチュア

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* 礫斎工房 *

礫斎の作品は、自身が完成まで全て一人で行ったものもありますが、そのほとんどが下地を礫斎が作り、その加工・加飾をそれぞれ専門の職人にまかせ、それを彼が最終的に組み立て作品としたもので、いわゆる「拵え」を担当していました。手を借りる職人も、その道の第一人者に限られていました。このようにして完成した作品は、礫斎という人物を中心とした「礫斎工房」の作品ともいえるのです。

この工房では、素材の吟味から成形、下拵えを礫斎が行いました。そして、彼の依頼でそれぞれ専門の職人や画家の加飾に回されます。最後に礫斎の手により作品としてまとめられ(拵え)るのです。礫斎と協力する職人は上下関係ではなく、強力な横の繋がり、同列の関係でありました。しかも、その腕が一流であり、その道の第一人者に限られていました。礫斎はこの様な職人の掌握に長けた人物であったともいえます。

「つとひ(集い)」
「つとひ(集い)」

「つとひ(集い)」(2.53×6.23×0.2センチ)
和綴じの本に見立てた二曲屏風に本作品の拵えの礫斎をはじめ、絵画・彫刻・蒔絵・象眼などに関わった人物が記されている。礫斎工房の主立った人名録にもなっている。

* 礫斎と中田實 *

中田實は、明治8年に裏千家の茶人、中田宗閑の長男として生まれました。父宗閑は、千玄々斎の業躰(若年からの内弟子で優秀な人物)の一人であり、宗匠の代役を務めた重鎮でした。實は父の生前からの遺言で、茶人にはならなかったのですが、そのような茶人の家に育ったからか、独特の美的感性を育んだのでしょう。住まいは、東京芝白金にあり、切手の収集を趣味とし、日本を代表する世界的なコレクターでありました。しかし、礫斎と知り合うと、彼は今までの収集品を全て礫斎の作品を入手する手立てに変えてしまいます。礫斎も實の注文に応え、次々に超ミニチュアを制作しました。

現在当館に収蔵されている作品群を見ると、クライアントである實と職人礫斎の息の合った制作過程が彷彿されます。恐らくは、次はこんなもの、次はもっと小さくと二人で趣味の世界に入り込んでいたのでしょう。

コレクションを前にして語らう中田實(右)と小林礫斎

コレクションを前にして語らう中田實(右)と小林礫斎(本当は礫斎は強い近眼で、眼鏡なしでは生活できなかった)。昭和12年、芝白金中田邸にて。

* 中田實の極小ミニチュア *

手のひらにミニチュアを載せる中田實。昭和12年。

手のひらにミニチュアを載せる中田實。昭和12年。

コレクションの特色は、とにかく小さいことが一番で、礫斎もミニチュアの作り手ですが、袋物商などで売られた彼の作品と比べると、中田コレクションに収められたものは、さらに小さいものです。通常の礫斎作品を掌に載ると表現するとすれば、中田コレクションは指先の世界なのです。まさに、小ささの極限を求めたコレクションといえましょう。

實は礫斎の技術を理解し、自ら望むものを彼に依頼し、礫斎の作ってきた作品に自ら箱や帙(ちつ)・たとうなどを作るほか、礫斎の箪笥や小箱などに入れる小さな巾着なども門前の小僧よろしく制作しています。礫斎もよく實の家に出向き、かなりの数の極小のミニチュアを制作しています。

しかし、中田コレクションは、全てが礫斎の作品ではありません。元々あった小さな人形や、極小雛道具なども含まれており、礫斎は、それらを収納する箱や入れ物も製作しています。

* 職人とコレクターの見果てぬ夢 *

礫斎の遺品や中田コレクションには、制作途中で終わってしまった「仕掛品」や、やがては制作に使われたかもしれない素材が相当数存在します。それぞれに、完成に至らなかった事情があるのでしょうが、「中田實の死によって、制作を中途でやめたものや、依頼内容のメモがありながら素材のまま残ったもの」、そして「礫斎が行える部分は済んでいるが、他の行程を任せる人間が居なくなって未完成なもの」、最後は「礫斎の死によって未完となったもの」の三種類に分けられます。

いずれも、日の目は見なかった、中途な作品ではありますが、礫斎や中田實の見果てぬ夢を形で残しているようです。未完であっても愛すべき「仕掛品」の存在も、礫斎作品と中田實のコレクションの重要な構成要素なのです。

象牙箪笥最小
桑印籠

〈左〉象牙箪笥最小、〈右〉桑印籠
礫斎ができるところまでは済んでいるが、これ以降の牙彫り・蒔絵・金工・錺(かざり)などができないまま、未完で現在残る仕掛品。

「鶉瓢箪」

おまけ 見立ての妙

「鶉瓢箪」と題された作品で、小さいながら瓢箪は実物で、置いてみると鳥に見えたのでしょう。この瓢箪に収まりがよいように凹みを付けた台を作り、一寸足を配したのが礫斎の手になる部分です。偶然の自然の産物を、見事に見立てて、一工夫加えただけで、このように鶉に見えるのですから、その着眼点と発想には脱帽です(3.02×2.26×2.40センチ)。

・・・・誰ですか? お菓子に似ているって・・・
でも、それも立派な着想です。

*このウェブサイトにある「コレクションギャラリー」でも、ミニチュアコレクションのいくつかを紹介していますので、どうぞ、そちらも御覧下さい。

お名残口上

旧中田實コレクションから、小林礫斎の作品を幾つか見て頂きました。でも、このミニチュアたちは、写真ではとてもその良さが伝えられません。何時の日か新しい博物館でもお目見えできる機会が必ずあることでしょう。どうぞ、是非実物を見て頂いて、その質感や完成度を確認して下さい。

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