特別展Exhibition

Web企画展 [第9回]たばこ盆

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西田 亜未(学芸員)

*たばこ盆とは?*

当館の特徴的なコレクションの一つにたばこ盆があります。

たばこ盆は、細刻みたばこをきせるで吸う、という日本特有の喫煙形態にあわせて用いられてきました。きせるでの喫煙には、火入れ、灰落(おと)し、刻みたばこを納める器といった道具が必要で、これらをまとめておくために使われたのがたばこ盆です。浮世絵にも、部屋を飾る道具の一つとして、あるいは客へのもてなしとして、町や街道沿いの茶屋などに置かれていたようすが描かれています。

たばこ「盆」という名称ですが、その形は盆形に限らず多様で、当館の所蔵資料にも盆形以外の形状が多く見られます。喫煙に必要な道具をまとめるという基本的な機能に加えて、火を保つための風除けや、日常生活に必要な身の回りの品を納める引出し、持ち運びに便利な提手(さげて)をつけたものなど、その実用的な形状には生活の知恵が反映されています。

かつては生活必需品として活用されたたばこ盆ですが、どのようにして制作され、販売されていたのかといったことは、詳しく分かっていません。制作時期や作者、制作地を知る手立てが少ないことや、日用品として使われる内に、破損したり補修されたりして、作られた当初とは異なる姿のものもままあるためです。

しかし、今日まで伝えられたたばこ盆には、木工、漆工、金工といった幅広い分野の職人たちの手技を見ることができ、高い技術力が示されています。

今回のweb企画展では、絢爛豪華な大名道具から素朴な日常品まで、多種多様なたばこ盆をご紹介します。

*盆形のたばこ盆*

たばこ盆という名の通り、お盆の形のたばこ盆。たばこ盆が、香道で使われる香盆の転用に始まったとされていることから、たばこ盆の中では一番古い形と考えられる。多くの場合、火入れ、灰落しに加えて、刻みたばこを入れる容器が付属している。他の形状に比べて大型のものが多く、大名や裕福な商家などが用いたと思われる豪華なものがしばしば見受けられる。

黒漆塗り鉄線蒔絵提げたばこ盆
黒漆塗り鉄線蒔絵提げたばこ盆
黒漆塗り鉄線蒔絵提げたばこ盆
盆面(写真右)には植物の鉄線が、桃山時代から江戸時代初期にかけて流行した高台寺蒔絵という様式で描かれており、様式の流行時期から、当館所蔵品中最も古いたばこ盆とされている。さらに提手と脚が後世に後付けされていることから、これは当初からたばこ盆という製品として作られたのではなく、既存の盆に提手と脚をつけてたばこ盆に仕立てた、いわばリメイクと考えられる。たばこ盆が香盆から転用された過程をうかがうことができる点でも貴重な資料である。

*風覆形のたばこ盆*

マッチやライターの登場以前、人々は火打石と火打金を使って火を起こし、一度起こした火は炭に移して火入れで保った。風で火が消えないように左右側面と背面の三方に風除けをつけたのが風覆形のたばこ盆である。刻みたばこを納められるように引出しが付いているものもある。

水葵に魚蒔絵たばこ盆
水葵に魚蒔絵たばこ盆
水葵に魚蒔絵たばこ盆
正面から背面まで四面にわたって流れゆく小川と水辺の水葵、小魚の群れが蒔絵で描かれている。拡大してみると、川の流れや水葵の葉脈、小魚のヒレや小さな目など細部まで蒔絵で表現されており、素朴なモチーフに潜む丁寧な仕事ぶりがうかがわれる。火入れは17世紀初頭に作られた伊万里の碗で、後世に転用されたと考えられている。
青貝草花人物螺鈿提げたばこ盆
花形の火入れと灰落しにあわせた仕様になっており、作られた当初の姿をとどめていることが分かる。引出しになっているたばこ盆本体の下部には中国の山水画風の文様が、火入れ、灰落しには草花文や幾何学文様が青貝細工で施されている。 このように、中国の山水画風のデザインを青貝細工であしらった作例は、輸出用漆器に多いことが知られている。このたばこ盆もその流れを汲んでおり、輸出漆器に多いデザインではあるものの日本国内用たばこ盆という変わった作例である。
青貝草花人物螺鈿提げたばこ盆
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