特別展Exhibition

Web企画展 [第9回]たばこ盆

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*升形のたばこ盆*

竹製の灰落しと陶製の火入れを備えただけの簡素で庶民的なたばこ盆。しばしば、茶屋の店先に置かれたようすが浮世絵にも描かれている。灰落しにはこげ跡が付いていたり、火入れは欠けたりヒビが入っていたりと、使い込まれたものがほとんどである。こうした日用品ならではの痕跡からは、たばこ盆が当時の人々の生活に欠かせない存在だったことがよく伝わってくる。

桐鳴子蒔絵たばこ盆
升形のたばこ盆には珍しく、蒔絵装飾が施されている。他の形のたばこ盆に比べて装飾が簡素な升形らしく、農作業風景をモチーフにした控えめな図案が描かれている。地味ながら金の蒔絵で四面に鳴子をめぐらせ、笠と鳴子部分は螺鈿(らでん)で装飾されている。灰落しは、竹の節が底になるように切っただけで漆塗りなどの装飾もない普及品である。赤や緑、金で彩られた陶製の火入れが付属しているが盆の絵柄との間に関連性はない。
桐鳴子蒔絵たばこ盆

*変った形のたばこ盆*

たばこ盆には、奇抜な造形のものや派手な装飾を施したものも多く見られる。たばこ盆の制作過程に、指物師、鋳物師、彫金師、蒔絵師など幅広い職種の職人たちが関わったことは想像できるが、具体的な工程や流通の形態は現在のところ未詳である。簡素な升形などには既製品もあったと考えられるが、派手な蒔絵装飾を施したものや、変り形のように奇抜なものは、受注生産あるいはごく少量のみが制作されたと思われ、作り手や注文主のこだわりが垣間見られる。

桑駕篭用手付きたばこ盆
桑駕篭用手付きたばこ盆
桑駕篭用手付きたばこ盆
駕篭用たばこ盆のため右の写真のように箱状に収納でき、その大きさは幅16.6×奥行5.8×高さ9.2cmである。展開すると左の写真のように火入れ、灰落し、引出しに提手を備えた実用的なつくりとなっている。派手な装飾はないが、小さい本体の中に必要な機能を備え、箱のように折り畳むことで持ち運びも容易になる、という機能性の高いたばこ盆である。
梨子地葦に波蒔絵舟形たばこ盆
梨子地葦に波蒔絵舟形たばこ盆

刻みたばこを納める器の蓋には、蒔絵で描いた木目の上に、さらに柴と桜の蒔絵を施すという細かい装飾がなされている。

梨子地波に葦蒔絵舟形たばこ盆
当館の代表的なたばこ盆で展示室はもちろん、本やウェブにもよく登場している。舟形あるいは豪華な蒔絵装飾のたばこ盆は他にも多数所蔵しているが、このたばこ盆は造形・装飾とも際立っている。舟形の本体にあわせて火入れは舟の屋根に、灰落しと刻みたばこを納める器は甲板に、そして2本の銀延べきせるは帆柱にかけられるように、と考え抜かれた造形である。毛利家伝来とされるだけに装飾も豪華で、金、銀をふんだんに用いて描かれた舟の木目や波のぼかし、波しぶきなど細部にいたるまで蒔絵により見事に表現されている。
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