特別展Exhibition

東京イラストレーターズ・ソサエティのメンバーが描く わたしの句読点2 <食いろいろ> 2012年5月19日(水)〜7月1日(日)

和田誠さんに聞く

「食」をテーマにした数々の作品を展示する「わたしの句読点2〈食いろいろ〉」展。TISに所属する171名のイラストレーターの方々が、たばこと塩の博物館で競演します。そこで、実行委員長である和田誠さんに、「わたしの句読点2〈食いろいろ〉」展について、お話を伺いました。

――「わたしの句読点2」ということで、前回との大きな違いは何ですか?
テーマが違うというところで違いは出てくるんだけど(笑)。
以前、“たばこは生活の句読点”という、たばこのキャッチフレーズがありましたが、前回の「わたしの句読点」は、それに倣って“句読点=一日の中のひと休み”ということにしました。それで、“生活の中の句読点”といえば、『たばこに限らずお酒、コーヒー、お茶もあるじゃないか』ということで、その中のどれを取り上げてもいいということでやったんですね。今回は、それをもう少し広げつつ、ある程度絞って「食」にしたんです。
もう少し内輪の話をすると、前回は、われわれTISが初めて「たばこと塩の博物館」でお世話になるということで、『「たばこ」をテーマにしようよ』と提案しました。でも、担当の鎮目(しずめ)さんから、『たばこに絞らずもうちょっと広く、“生活の句読点”と考えられるものを』と提案されました。それで前回は嗜好品にしたんです。今回は『2度目の展覧会だし、今度は「たばこと塩の博物館」のもうひとつの核である「塩」をテーマにしよう』と。でも「塩」だと、非常に難しくてね。170人ものイラストレーターが、みんなで塩を描くとまっ白になっちゃうから(笑)。それで「料理」や「食」という風にテーマを広げれば、なんとかなると。まあ、料理に塩を使うのはほぼ当たり前みたいなものだから、「塩」から発展して「食」というテーマができました。
だから、前回と今回でどんな風に違うかというと、一般のお客さん――前回も見に来てくれて今回も来てくれるという人――にとっては、テーマが似ていると思うかもしれないけれど、“一人ひとりが違うものを描いている”というところは面白いと思いますよ。
和田 誠

和田 誠(わだ まこと)
1936年生まれ。多摩美術大学図案課卒業。デザイン会社ライトパブリシティを経て、フリーのグラフィックデザイナー兼イラストレーターに。文春漫画賞、毎日デザイン賞ほか受賞。著書は『装丁物語』『似顔絵物語』など。

――今回、図録の色校正を行っていましたが、色校正の際に注意しているようなことはありますか?
一つ一つの作品は、原画を描くそれぞれの人の絵の具とか、色の塗り方など違いがあります。一方、印刷のほうは、その人の描き方にあわせて違う印刷技術を使うことはできない。そういう意味では、1点1点の色を見ていくということは、なかなか難しいことです。正確に原画通りの色が印刷で出るかというと、なかなかそうはいかない。青(C=シアン)、赤(M=マゼンタ)、黄(Y=イエロー)、黒(K)という4色の印刷インクを組み合わせて刷るのと、イラストレーターがそれぞれの絵の具で描くというのとは、ものが違います。『何が何でもこの原画に忠実にしなきゃ』という風に言い出すと、ものすごく細かいところまで、『ここは違う』『あそこは違う』とやっていかなきゃいけない。でも、こうした多くの作家の作品を収録した本の場合、印刷物の出来上がった状態が、その作品の雰囲気をとらえていて、すばらしいものになっていればいいと考えています。多少原画と違っていてもね。ただ、大きく違っていちゃダメですよ。
校正をしながら『Cマイナス』とか『Mプラス』とか話しているのは、印刷インクの青(=C)、赤(=M)、黄、黒の割合のことです。それで微妙に色が違ってくるから、そこの匙(さじ)加減を考えながら原画の色に近づけるための指示をしています。印刷会社の人は専門家だから詳しく知っているのは当たり前だけれども、僕はグラフィックデザイナーとして経験を積んで少しずつ分かるようになってきた。だからね、こうやって対等にしゃべれるように、ようやくなった(笑)というわけです。僕たちイラストレーターやデザイナーは印刷会社の人たちと共同作業しているようなものなんです。
――イラストレーターの方々のいろいろな作品を見て、どのような感想を持たれましたか?
「食」というテーマを、いろいろな人がいろいろな視点でとらえて作品を作っているところが面白いですよね。『みんないっせいにネコを描きましょう』というのとは違って、与えられたテーマではあるけれども、作品を見ても分かる通り、「食」というのはこれだけさまざまなものがある。漠然としたお題を投げかけられても、答えが一人ひとり違うということです。そういうことが面白いね。
描き方に違いがあるのは、みんながイラストレーターであり、クリエーターだから当たり前のことだけど、個性が出るのはそこだけじゃない。同じ「食」というテーマを与えられても、その「食」の中の何を選ぶかっていうのは一人ひとり違う。〈食いろいろ〉というのがテーマの「いろいろ」っていうのに対する解釈が一人ひとり違うのが面白いね。